【映画】白いリボンについて
2016年1月6日 映画去年もこの映画見たんだけど、ふと見返したくなって改めてみるとその作品の緻密さ、完成度の高さに驚かされた。
自分の中ではこれまで見てきた映画の中で5指に入るほどの作品だと思う。
監督はドイツのミヒャエル・ハネケ。
この名前を聞くだけでファニーゲームやピアニストなんかを連想してうげーって思う人もいるかもしれない。
そう、この監督はハリウッド的な娯楽作品とは真逆に位置する、見る人を席に縛り付け、ポップコーンを食べる手が止まるような不快な作品を作る監督だ。
不快といってもゴア表現やホラーやエログロなんかではない、日常生活や人間心理、群集心理の中の毒を淡々と描く監督である。
おおよそ暴力表現は直接的ではないにしろあるのだが、見た人はおそらく直接描いてくれた方がましだと思うんじゃないだろうか。
そんな監督の作品をなぜオススメするかというと、この「白いリボン」がハネケの作品の中でもかなり映画に対するリテラシが試され、かつハネケの作品の中では見る人によってはただ退屈でちょっと深そうな作品に映るからだ。
実際自分の家族はこの映画に何の興味を示さず、ただ「渋いね」とだけ印象をつぶやく。
それもそのはずだと思う。この映画は2009年上映された映画なのだが、白黒フィルムなのだ。
以下トレイラー↓
https://www.youtube.com/watch?v=LFdw_wwaB-k
日本語版のトレイラーは綺麗な作品に見せかけているが実際はもっと静かで、ハリウッドのような盛り上がりも歴史大河作品のような壮大さもない。
しかしながらワンシーンワンシーンが非常に印象的である。
初見では気づくことのできない恐ろしさ、複雑さ、意味の深さが込められている。
繰り返し見ると、一見つなぎのように見える意味のないようなシーンやセリフですら、多くのことを語っていることがわかる。
是非見てほしいのでネタバレは避けたいが、ハネケ作品に共通する、説明の少なさや能動的に見ないとただ不快な時間が過ぎるだけの映画であることは間違いない
ここまで挑戦的な作品もないだろう。
さて、あらかじめ見やすいように説明しておくと、非常に登場人物が多く、かつ先ほど述べたように説明が少ない。
舞台は一次大戦前のドイツのとある村。
これは架空の村だがフィクション性はほぼ皆無だ。
主人公は語り手の教師(31歳)
彼が戦争直前に村で起こっていた奇妙な出来事を、かくして人は悪に染まり、戦争に向かっていったといわんばかり、におぼつかない記憶を頼りに語っている。
登場人物は以下のグループで大まかに分かれている。
①主人公と恋人となるエヴァ
②作品冒頭で落馬するドクターとその隣人一家。隣人は助産婦でドクターの介護をしている。ドクターには14歳の娘と小さい息子、助産婦は知恵おくれの子供がいる
③男爵と家令の一家。男爵は村の権力者であり、家令はそれに次ぐ権力者。男爵は奥さんと息子(知恵おくれ?)と双子の乳飲み子がいる。家令にも子供は多くいるがあまりかかわってこない。男爵は複数の乳母や使用人を雇っており、主人公の教師とエヴァも雇われたことがある。
④小作人一家。男爵や家令に雇われており、逆らうことはできない。
⑤牧師の一家。牧師は厳格であり、複数の子供たちは牧師である父親に逆らうことができない。牧師は男爵ほどではないが村でそれなりの地位を持ち、畏怖の念を持たれている。
これらの前情報を頭に叩き込み、かつ当作品が複数の事件を扱った犯人探しのミステリであること、戦前のドイツの村社会の空気を反映していること、決して決めつけで見てはいけないことを念頭に置いてみてほしい。
テーマは見る人によってそれぞれである
純粋悪や嫉妬、暴力、村社会の格差や宗教への皮肉、歪んだ性のなす人間関係など・・・
この映画はミステリであり、監督は論理的に考えれば誰が犯人化は誤解することはないと説明しているが、多くの人が誤解するので気を付けてほしい。
語り手が記憶を頼りにおぼつかない語りをする、と述べたが、この作品中には犯人を巡るいくつものミスリードやノイズが用意されている。
しかしながらシーンひとつひとつを細かく観察すれば、自ずから一つの結論に帰着するだろう。
どうか普段娯楽作品に親しんでいる人ほど、茶化さずに我慢して二時間ばかりのこの映画を見てほしい。
もしあなたがそれなりの観察眼とリテラシを持っているのなら、きっと結末に恐怖することだろう。
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